浮気されたフラッシュバックに壊れていく夫…後編
浮気のフラッシュバックに心を削り続けた夫の決断

道子さんの二度目の不倫が発覚してから、博さんの心には深い傷が残りました。
「家族を失うなんて考えられない」
そんな思いで、離婚という選択肢は考えもしなかった。
乗り越えようと必死だった。自分が変われば、努力すれば、元通りに戻れる。
何度もフラッシュバックに苦しみながらも、自分を責め、気持ちを押し殺し、現実から逃げるように日々を過ごしてきました。
「いつか忘れられるはず」
「時間が必要なんだ」
そう願いながら過ごした数年間。
けれど、どれだけ時が過ぎても、心が軽くなることはありませんでした。
離婚という言葉が初めて浮かんだ日
脳裏に浮かんだあの言葉。
「離婚したら、楽になれるのかな……」
子どもはもうすぐ卒業。
無精子症の自分にとって、我が子との出会いはまさに奇跡だった。
自分の子ではないと知っていても、どれだけ愛おしかったか。親子の絆に偽りはなかった。
道子さんと出会わなければ、子を育てることもなかっただろう。だからこそ、道子さんに対して感謝の気持ちもあった。
子どもの門出を見届けた今、博さんは安堵と幸福に包まれる一方で、まるで役目を終えたような脱力感に襲われました。
「なんだか…疲れたな」
サレ夫 心と体の限界、そして「少し一人になりたい」
二度目の不倫が発覚してからというもの、博さんの不調は続いていました。
夜は眠れず、突然の吐き気に襲われ、些細なきっかけで不安に飲み込まれる。
フラッシュバックは相変わらず繰り返され、心が休まる瞬間がありませんでした。
「少し、一人になりたい……」
博さんがそう切り出すと、道子さんは、理解が出来ませんでした。
「えっ…?」
「なんで…理由は?」
まるで想像もしていなかった言葉に驚きました。
自分がかつて深く裏切ったことなど、道子さんはとっくに忘れていました。
そんな道子さんにとって、博さんの言葉はあまりにも突然だったのです。
平穏な日常と錯覚していた道子さんは、その一言で現実に引き戻されました。
涙ながらに懇願しました。
「それだけは嫌。元通りに戻りたい」
「私、本気で反省してきたの。博の為にずっと家事も頑張ってきた。償ってきたじゃない」
「お願い、もう一度チャンスをちょうだい……」
「私達、やり直せるよ」
「許してくれたんじゃなかったの」
「昔のことじゃない」
「博のことが大事なの。愛してる。わかってほしい」
必死の説得に博さんは心を痛めながらも、別居を決断します。
「一人で考えたいんだ」
子どもは独立。博さんはアパートを借りて、出ていきました。
道子さんは、数日に一度、博さんの家に来ては料理を作ったり、掃除をしたりしていました。
道子さんが話しかけても博さんの口から返ってくるのは「あぁ」「うん」といった、短い返事だけでした。
以前のような優しい笑顔を道子さんに向けてくれることはありませんでした。
久しぶりの食卓
別居から一年が経ったある週末、博さんがぽつりと言いました。
「久しぶりに、一緒にご飯を食べようか」
道子さんの好きな料理をたくさん買って会いに来てくれた博さん。
道子さんはその優しさに涙がこぼれそうになりました。
恐る恐る、これからのことを尋ねてみると、博さんはやさしい笑顔を見せて言いました。
「別に、もういいよ」
その晩、博さんは久しぶりに一緒に眠ってくれました。
思いきり抱きしめてくれて、「愛してる」と言ってくれた。
その温もりはあまりにも優しく、道子さんは安心して眠りにつきました。
翌朝。
博さんの姿がベッドにありません。
先に起きたのかと思いリビングへ行くと、そこには通帳、印鑑、そして一通の手紙と離婚届けが置かれていました。
「今までありがとう。愛してる。」
それが、博さんからの最後のメッセージでした。
※この物語には実際の人物・団体は関係ありません。